ピロリ菌とは

ピロリ菌は体長約4ミクロン(4/1000mm)の病原微生物で、この細菌が胃の中に生息することで、胃で慢性的な炎症が起きるようになります。正式名称は「ヘリコバクター・ピロリ」です。

そもそも胃の中は強い酸性環境下にあるので、通常であれば細菌が生存するのには厳しい環境下にあります。しかし、ピロリ菌はウレアーゼと呼ばれる酵素を産生することで、胃の粘液中の尿素をアンモニアと二酸化炭素に分解し、生じたアンモニアで、胃酸を中和し、胃の中での生息を可能にしています。

ピロリ菌は胃壁に取り付くと、細胞を弱らせてしまう毒素を出し始めます。すると、その菌を排除しようとして血液中の白血球やリンパ球が付近に集まってきます。この攻防が激しくなってくると、胃の粘膜が炎症を起こして胃炎になったり、胃や十二指腸の粘膜が深くえぐられて消化性潰瘍になったりすると考えられます。

ピロリ菌外来

幼児期に感染するピロリ菌

ピロリ菌の感染経路については詳しく特定されていません。ただ胃内に定着することから、口から入って胃に感染するのではないかと考えられており、多くの場合、幼児期に感染します。

理由としては、幼児期の胃の中は酸性が弱く、ピロリ菌が生き延びやすい環境であるからです。ピロリ菌に感染している大人から、小さな子どもへの食べ物の口移しなどには注意が必要です。

ピロリ菌に感染するとヘリコバクター・ピロリ感染胃炎を引き起こします。
ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎は、胃・十二指腸潰瘍、胃がん、胃マルトリンパ腫、胃過形成ポリープなどの胃の病気をはじめ、特発性血小板減少性紫斑病や慢性じんましんの原因のひとつとなります。

ヘリコバクター・ピロリ抗体が高値であれば、本菌に感染していることが考えられます。ヘリコバクター・ピロリ感染の有無を検索するスクリーニング検査です。

検査について

ピロリ菌の感染が疑われる場合は検査を行います。検査には、下記のように多くの種類があります。当院ではそれぞれの特徴を考慮して、状況に応じて検査を組み合わせ診断していきます。

内視鏡を用いない検査

尿素呼気試験 13C-尿素を含んだ検査薬を飲む前後に容器に息を吹き込んで呼気を調べる検査です。ピロリ菌の産生するウレアーゼが胃内の尿素を二酸化炭素とアンモニアに分解することを利用します。体への負担が少なく、精度も高い検査法ですが、検査前に食事制限があります。
便中ピロリ抗原検査 ピロリ菌に対する抗体が、生きた菌だけでなく死菌なども抗原(H.pylori抗原)として認識し、特異的に反応することを利用します。体への負担が全くなく本菌の存在を判定できます。
血中尿中ピロリIgG抗体検査 ピロリ菌に感染すると、本菌に対する抗体が患者さんの血液中に産生されます。この抗体の量を測定し、ヘリコバクター・ピロリ抗体が高値であれば本菌に感染していることが認められ、ヘリコバクター・ピロリ感染の有無を検索するスクリーニング検査です。除菌後も陽性となるため、除菌後の効果判定には不適切です。

内視鏡を用いる検査

迅速ウレアーゼ試験 ピロリ菌のもつ酵素のはたらきで作り出されるアンモニアの量を調べて、ピロリ菌の有無を調べます。
鏡検法 採取した組織を染色して顕微鏡で観察することにより、ピロリ菌がいるかどうかを調べます。
培養法 採取した組織を用いて培養し、ピロリ菌が増えるかどうかを調べます。

除菌治療

検査によってピロリ菌による感染が判明した場合は、除菌治療を行います。治療は主に薬物療法ですが、胃酸を抑える薬と2種類の抗生物質、合わせて3種類の薬を朝夕の1日2回、1週間内服します。そして服用を終えてからおよそ1ヵ月以上が経過した後、除菌療法の効果を判定します。

これを1次除菌薬と言い、この時点での除菌率は70%~80%程度と言われています。なお、医師の指示通りに薬を正しく服用していたとしても、体質や菌の薬剤耐性によっては除菌に失敗する場合もあります。

初回治療(1次除菌薬)で除菌できなかった方には、抗生物質の組み合わせを変えた2次除菌薬による治療を行います。2次除菌薬による除菌率は90%程度で、多くの患者さまが1回もしくは2回の治療でピロリ菌除菌に成功しています。それでも除菌がうまくいかない場合はさらに抗生物質を変更した3次除菌を検討しますが、保険適応外診療になります。

胃がんとは

胃がんは、胃壁の最も内側にある粘膜内の細胞が、何らかの原因によってがん細胞に変化する病気です。日本人には非常に多く見られるがんのひとつであり、特に50歳以上の男性の罹患率が高いといわれています。早期の段階では、それ自体による症状が現れてこないため、多くの場合は健康診断や人間ドックの際に発見されます。

他の種類のがんと同様に、胃がんも早期発見が重要であり、早期の段階で治療を行うことができれば、治癒率は9割を超えています。しかし、進行すると治療が難しくなりますので、健診は毎年、定期的に受け、早期発見・早期治療を心がけるようにしてください。

また、胃の中にピロリ菌が存在している場合、胃がんの発生リスクが高まります。まずはピロリ菌の検査を受け、必要に応じて消化器内科の専門医のもとで除菌することをお勧めいたします。